スタジオ機器を開発する独MUTECは、オーディオファイルも注目するUSBオーディオ向けクロックジェネレーターを多数開発している。中でも人気なのが、USBオーディオに追加できるマスタークロックジェネレーター「MC-3+USB」、そして10MHzリファレンスクロックジェネレーター「REF10」である。そのREF10に、近傍位相ノイズの性能をさらに追い込んだ最新モデル「REF10 SE120」が登場した。
本機は50Ω出力を2系統、75Ω出力を6系統装備し、フロントのスイッチで、使用する出力のみを選択可能。MC-3+USBなどのマスタークロックジェネレーターや10MHzクロック入力可能なSACDプレーヤーやDACなどに接続できる。
その内部回路の大きな特徴と魅力は、ドイツ国内でハンドメイドされた超低位相ノイズOCXO(恒温槽制御水晶発信器)を搭載したことで、10MHzから1Hz離れた近傍位相ノイズは、何と-120dB/c @1Hzを実現した。
REF10の近傍位相ノイズは-116dB/c @1Hz、これも優れた性能であったが、REF10 SE120ではパーツを厳選し、さらにその上をいく製品を生み出してきたのだ。120という型番も、この値から取られたものであろう。
REF10の発売当時、詳しい技術者に質問したところ、この近傍位相ノイズが少ないほどジッター成分が少なくなり、DAC内部で発生するジッターも低減できるとのことであった。高品位な10MHzマスタークロックを外部から供給するという意味では、近傍位相ノイズの低さと周波数安定性が重要だと力説していた。
このREF10を自宅のdCS Vivaldiデジタルプレイバック・システムで試した時は、S/Nが向上し、ダイナミックレンジが拡張したかのような感覚と、解像度が高まったことに、いたく感激した。
内部回路を観察してみると、OCXOの性能を発揮させる高品位アナログ電源回路に感心した。また回路面では、クロックを最短で出力する構造になっており、その出力素子には、クロックの立ち上がり時間(波形のエッジの急峻さ)を重視し、高スルーレートで、最小幅のリップル短形波信号を実現する素子を採用したのである。
そして今回、驚愕の-120dB/c @1Hzを実現するOCXOを搭載したREF10 SE120を試したわけだ。特性グラフを見ると10Hz離れた特性は、約-150dB/cを示し、100Hzでは、約-162dB/cを実現している。私はこれほどの特性値を過去に見たことがない。
しかも位相ノイズの少なさだけではなく、周波数精度や長期安定性も重視している。それゆえ、量産不可能な特別生産のOCXOを搭載しているのである。なお、基板構成や電源部はREF10と変更はない。
■4dB差は驚くほど大きい。空間が拡張され、奥行きが深くなる
今回、最初にエソテリックのSACDプレーヤー「K-03XD」を使用し、REF10とREF10 SE120を比較した。
音源には、アラベラ・美歩・シュタインバッハーによる『ヴィヴァルディ:四季&ピアソラ:ブエノスアイレスの四季』、ホフ・アンサンブルの『Quiet Winter Night』、バーンスタイン指揮、ウィーン・フィルによる『ベートーヴェン:交響曲全集』を使用している。
K-03XDは内部クロックが高品位で、ディスクリート高精度のDACの威力が十分発揮できていると思っているが、REF10を接続すると、さらに音像が解像度高く空間描写され、S/Nが向上した印象を受けた。特に静寂な音階は魅力で、音楽に深みを感じさせてくれた。
次にREF10 SE120を接続すると、さらに空間が拡張され、特に奥行きが深くなり、演奏の様子が、一層リアルに浮かび上がる。音の立ち上がりも変化し、再生レンジ、スケール感が拡張されたかのように思えた。しかも静寂感が一層増し、倍音成分も増えた印象を受けた。この-116dBと-120dBの4dB差は、驚くほどに大きいことを体験したのである。
次にREF10 SE120をトライオードのMQA-CD対応CDプレーヤー「TRV-CD6SE」に接続した。この音にも感激した。CDを再生しても、5.6MHzDSDやDXDアップサンプリング機能により、ハイレゾではないかと思うほど音が高密度化され、CD再生とは思えない解像度の高いワイドレンジな音質を体験した。
特に真空管出力を使用したMQA-CD再生では、倍音が豊潤で、中低域に量感を感じさせ、アナログサウンドを彷彿とさせる音を鳴らす。また、REF10 SE120自体は実にナチュラルで、特定の周波数帯域を強調したり、音をシャープにするなどの色付けをほとんど感じさせないことも理解できた。まさにデジタル機器の性能を発揮させるスタジオ仕様なのである。
クロック入力がある機器をお持ちの方は多いことであろう。ぜひ一度、REF10 SE120との接続を専門店で試して欲しい。
■手で触れられるような立体空間がスピーカーの間に出現
最後に愛用のdCS Vivaldiデジタルプレイバック・システムのVivaldi Clockに接続し、SACDやハイレゾを再生した。感激したのは、エソテリックやトライオードで試したときと同様に音が高密度化され、手で触れることができるような立体空間が再現され、静寂感が増したことである。
アナログ再生に迫るほど倍音が豊かで、透明度の高い音質も体験できた。本機はオープンプライスで、想定価格は税別62万5000円とのこと。だが、超高品位なOCXO、搭載している技術、高音質への効果を考えると、その価格を遥かに超えていると実感している。私自身も今回の取材を終えてから、自宅に招こうかと予算を考え始めてしまったほどである。
まさに驚愕の特性値を備えた、ハイエンド10MHzリファレンスクロック・ジェネレーターの登場である。
(協力:ヒビノインターサウンド(株))
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July 20, 2020 at 10:19AM
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驚くほど大きい4dBの差。MUTEC新クロック「REF10 SE120」が拓くハイエンドデジタルオーディオ - PHILE WEB
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