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Friday, May 1, 2020

高所恐怖とホッブス | ぶらっとヒマラヤ -定年間際の男が山で考えたこと- | 藤原 章生 - 毎日新聞

 ベースキャンプに向かって下りているとき、突然、ひょうが降り始めた。私は、急な雪面をザイルにぶら下がるようにして懸命に下りていた。すると「ダンダンダンダン……」という巨大な鉄板をぶつけ合うような音が耳に入ってきた。次第に大きくなる音を「何だろう」と私はいぶかった。

 激しいひょうのせいで視界は数m。斜度は50度以上あるが、下がよく見えない。どこかで誰かがポンプでも動かしているのか。でもなんで? 小屋なんかないじゃないか。ザイルに身をあずけ、雪だまりで急停止したときに気づいた。「ダンダンダンダン……」という機械のような音は自分の心音だった。

 そんなふうに聞こえたのは初めてだった。

 外からの音だと思ったのは、あまりに大きかったからだ。過去に何度となく死にかけ、怖い思いをしたけど、心臓の音がこれほど大きかったことはない。

 その日は高度に慣れるため初めて標高6000mまで登り、一度ベースに戻る日だった。つまり、標高5200m付近の、長さにして300mほどのその急斜面を初めて下りる日だった。

 この斜面はその後、何度も上り下りすることになり、最後はザイルにカラビナをひっかけて滑り台みたいに下りる通称「シリセード」で気楽に下りるようになった。でも、その時は初めてだし、視界が利かずひょうに降られたのも影響したのだろう。

 私にとっては恐怖の時間だった。

 雪崩や落石の恐怖についてはすでに書いた。それにぶち当たるのをロシアンルーレットにたとえ、そういう中でも普段以上に冷静である自分を不思議に思ったという話だった。

 雪崩のように近い将来に起きるかもしれない恐怖を「静かな恐怖」とすれば、山を歩いているときに突然感じる高所恐怖などを「動く恐怖」とでも呼べばいいのか。私の場合、後者の恐怖に襲われることが時々ある。

 では、恐怖とは何だろう。

 イギリスのホッブズ(1588~1679年)という哲学者が、人や動物…

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May 02, 2020 at 03:32AM
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