本研究成果は、ACS(アメリカ化学会)発行の環境系雑誌「Environmental Science & Technology」に掲載されました(2023年8月23日公開)。
研究成果のポイント
研究背景
VOC発生量の評価には、これまで燃焼効率(Modified Combustion Efficiency; MCE)がパラメータとして使われてきました。MCEはCO2とCOの量によって決定され、有炎燃焼や無炎燃焼の相対的な寄与率を表します。植物が燃え始めてから燃え尽きるまでの一連の燃焼時間内で観測される、MCEの平均値とVOCの平均発生量には相関があると云われていますが、ほぼ全てのVOCにおいて、燃焼中の瞬間的な発生量はその瞬間のMCEには相関しないという問題がありました。これはすなわち、MCEは本来、VOC発生量の評価や測定に適したパラメータではないということを意味しています。したがって、VOC発生量を高精度で推定できるパラメータの探索が、喫緊の課題となっていました。
研究内容
これらの実験室内で得られた結果が、野外での実際の山火事に適用できるかを確かめるため、2019年の夏にNASA DC-8を用いた航空機観測が北米西部で行われました。8つの異なる山火事のVOCを同様に測定、解析した結果、高温・低温熱分解プロファイルの組み合わせによって、山火事から直接発生するVOCの種類と量を70%以上の精度で表現できることを見出し、さらに、高温・低温熱分解プロファイルの相対的寄与率は、衛星によって観測される「fire radiative power (FRP)」に相関することが明らかになりました。FRPは燃焼温度に相関することが知られています。したがって、山火事に由来するVOCの発生量は、燃える植物の種類よりも燃焼温度による影響が大きいと結論付けられました。
今後の展開
本研究により、山火事に由来するVOCの発生量は、衛星観測で得られるFRPと2つのVOCプロファイルから正確に予測することが可能になりました(図1)。この成果は、山火事に由来する大気汚染物質の発生メカニズムの解明等に貢献できると期待されます。
研究費
本研究は、横浜市立大学学長裁量事業 第5期戦略的研究推進事業、令和3年度 科研費・基盤(C)、平成27年度JSPS海外特別研究員制度の支援を受けて実施されました。
論文情報
著者:Kanako Sekimoto, Matthew M. Coggon, Georgios I. Gkatzelis, Chelsea E. Stockwell, Jeff Peischl, Amber J. Soja, and Carsten Warneke
掲載雑誌:Environmental Science & Technology
DOI:10.1021/acs.est.3c00537
※本研究成果の概要図が、Supplemental Cover Artに採択されました。
https://pubs.acs.org/toc/esthag/57/35
用語説明
*1 正値行列因子分解(Positive Matrix Factorization; PMF):PMF法は、多成分の変動要素からいくつかのパターン(因子)を抽出する統計モデルで、抽出された因子の成分組成に着目することでその因子の由来を推定するもので、発生源に関する特定の化学成分データを必要としないことが特徴である。
参考文献
お問合せ先
からの記事と詳細 ( 山火事により発生するガス状有害物質の放出量は「燃焼温度」の ... - 横浜市立大学 )
https://ift.tt/1Nz2kOP
No comments:
Post a Comment