Pages

Tuesday, August 29, 2023

札幌五輪の招致、盛り上がっている? あまりにも大きい東京五輪の ... - 東京新聞

hitagajah.blogspot.com

 東京での夏季五輪から2年たった。東京大会の閉幕時、2030年の冬季五輪開催地として本命視されていたのが札幌だった。ところが今、開催を熱望する盛り上がりはない。汚職と費用膨張にまみれた東京五輪の負の影響は計り知れない。なおも招致を正当化し、多くの人が納得する五輪像を札幌は描けているのか。最近の動きを追った。(木原育子、安藤恭子)

2030年の札幌五輪誘致の広告。右奥は現北海道庁舎=2022年11月撮影

2030年の札幌五輪誘致の広告。右奥は現北海道庁舎=2022年11月撮影

◆公開討論会で侃々諤々

 今月21日、札幌青年会議所が開いた公開討論会。札幌市の秋元克広市長の他、キャスターや弁護士、アスリートら5人のパネリストが登壇し、侃々諤々かんかんがくがくの議論を展開した。

 「私は苦言を申したい」。冒頭、いきなり切り込んだのはテレビキャスター佐藤のりゆき氏だ。討論会を告知する市の広報紙の文言が「招致の意義や費用対効果を徹底討論」とあるのを問題視。「(札幌大会を)やる前提の討論会ではない。やがて行われるべき住民投票と世論調査の参考にするものだ。広報紙への載せ方が非常に姑息こそくでずるい」と先制パンチを浴びせた。

 秋元市長は五輪開催の意義について、「人口が減っていく中、都市を維持するということで、外からお金を稼いでいかないといけない」と地域振興策を強調。旭川市出身でタレントの杉村太蔵氏は「景気対策や経済対策として捉えるのは反対」とし「もっとシンプルにスポーツの祭典、平和の祭典を楽しむんだって観点でやらないと」と述べた。

 討論会の中盤、話題はやはり開催経費に。

 札幌大会の運営経費は2200億〜2400億円としており、秋元市長は「既存の施設を使う。民間資金を集めて計画し、身の丈に合った運営をしていく」と説明した。だが、大会見直し案の検討委員会のメンバーで弁護士の大川哲也氏は、「東京大会では計画になかった『間接経費』がものすごくかかった。これはきちんと検証していかなければいけない」と反論した。

 東京大会では開催都市に中止権限がないなど国際オリンピック委員会(IOC)との不平等とも取れる契約内容も露見した。大川氏が「契約の中でIOCにお金をかけないとだめって言われたら、断ることができるのか」と質問すると、秋元市長は「IOC自体、過去の反省に立っていろいろ変わってきている」という見通しを披露。大川氏は「莫大ばくだいな経費がかかる中で、契約を結ぶ際に『恐らく(態度が)ソフトだから大丈夫だよ』なんて普通言えないはずだ」と甘さの残る姿勢を一刀両断した。

 招致を巡る住民投票の実施に対し、市は後ろ向きな態度を続けている。

 佐藤氏は「誘致するかどうかを決めるのは市民。どうして住民投票をしないのか」とにじり寄ると、秋元市長は「ですから、やらないとは一言も言っていない」と開き直った。そして「五輪に反対だから住民投票ではなく、賛成も反対も自分の意思を表明できる道具立ては大事だ」と論点をずらすと、佐藤氏は「そうですよ、じゃあいつやるの」と一歩も引かない展開。

 秋元市長は「きちんとタイミングがきた時に意向の確認はしなきゃいけない」と語り、「これからいろんな形の情報提供をしないといけない」と述べた。

◆汚職・談合事件でしぼむ機運

札幌市役所の前に設置された1972年札幌五輪の聖火台

札幌市役所の前に設置された1972年札幌五輪の聖火台

 札幌市は、30年大会の開催地決定を今年5月のIOC総会と想定してきた。市が昨年3月に実施した招致の是非を問うアンケートのうち、市民を対象にした郵送調査では「賛成」「どちらかといえば賛成」が計約52%とかろうじて半数を上回った。

 その後、東京大会を巡る汚職・談合事件で招致機運が一気にしぼんだ。昨年12月、IOCは開催地決定時期を先送りし、市と日本オリンピック委員会(JOC)は「積極的な機運醸成活動」の休止を発表した。今年4月の市長選では秋元氏が3選を果たしたものの、招致反対の候補2人が計4割強の票を獲得。市は34年大会招致への目標切り替えも視野に入れる。

 五輪への汚れたイメージを払拭するため、市は6月、大会運営の見直し案を公表。大会組織委員会理事の一部公募や、外部有識者を交えた「スポンサー選考委員会」設置などを盛り込んだ。

 現状では、開催地の内定は早ければ年内ともいわれるが、AP通信によると、30年大会にはフランスの2地域圏やスウェーデンなどが招致レースに参入。34年大会は02年に大会を開催した実績があり、地元の支持率が8割前後と報じられる米ソルトレークシティーが有力視される。

◆住民投票の直接請求へ運動

 こうした中、市民団体「札幌オリパラ招致の是非は市民が決める・住民投票を求める会」は今月、札幌招致の賛否を問う住民投票条例の制定を求める直接請求運動を始めると発表した。

 高橋大輔事務局長は「何10年も先の札幌のまちづくりに関わるというのに、これまで市民が議論する機会は乏しかった。住民投票が実現すれば、招致を自分ごととしてとらえられ、賛成の人も反対の人も1票を投じられる」と意義を語る。

 条例制定の直接請求には、同市の有権者の50分の1にあたる約3万4000人分の署名を2カ月以内に集める必要がある。署名が有効と確認されれば、市長が市議会に条例案を提出。会では、9月中旬に署名集めを開始する方針だ。

 市議会は招致賛成の議員が多数を占め、条例成立のハードルは高いが、高橋さんは「お上が決めたことを黙って見ているのは民主主義じゃない。市議の姿勢も含め、住民投票への判断は後世に残る」と意気込む。

 五輪への信頼が揺らぐ中、札幌で開催する意義とは何か。石坂友司・奈良女子大教授(スポーツ社会学)は、女性蔑視発言で組織委会長を退いた森喜朗氏について触れ「東京大会の負の印象が強すぎる。日本経済も疲れていて、市民がもろ手を上げて賛成とは言いづらい空気だ」と述べる。

 昨年の大雪で除雪遅れが問題となり、交流サイト(SNS)では「五輪よりも除雪を」という市民の批判も相次いだ。「札幌市は、五輪の有無にかかわらず必要な道路補修やバリアフリーといった今後のまちづくりのビジョンや、そのための費用を打ち出し、市民の理解を得る必要があるが、いまはそれができていない」

 札幌市出身の渡辺靖・慶応大教授(国際文化政策)は1972年の札幌冬季五輪の際、家族と沿道から選手に手を振った。「国際的な雰囲気に心躍り、街がきらきらしているように感じた」と振り返る。ただ、戦後復興を目指した当時と今とでは「五輪の意味は変わってきている」と述べる。

 「東京大会で残ったレガシー(遺産)はあまりない。それでもスケートボード競技などで、若い選手が国を超えてたたえ合う姿に『共感のネットワーク』を広げる五輪の可能性を感じた」と渡辺教授。複数国開催で交流を増やし、温暖化リスクや費用負担を分散することや、侵攻が終結した後のウクライナとの連携といった新たな「五輪像」を求める。「東京大会を教訓に、札幌から日本は変わったと、世界に発信できるかどうか」も招致の意義づけに関わるとの見方を示した。

◆デスクメモ

 「多くの人が来て、お金を使ってもらわなくては」。秋元市長が討論会で、五輪の意義として地域経済力の向上を真っ先に挙げた時、力が抜けた。地域振興は自治体の通常業務だ。五輪の本来の目的ではない。平和の祭典は自己の利益のためなのか。これでは幅広い理解は得られない。(北)

関連キーワード



おすすめ情報

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 札幌五輪の招致、盛り上がっている? あまりにも大きい東京五輪の ... - 東京新聞 )
https://ift.tt/EOlW23s

No comments:

Post a Comment